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プロローグ−心の探求始まる

序章「美唯子 失業中」
―美唯子 生活全般を修正する直前 少しだけ静かなひととき―

序−1 東京下町に母と子猫たちと暮らす
うらうらとした暖かい冬の日なた。東京下町門前仲町、コの字型木造平屋一戸建て、中庭の梅がほころび始めた。ふきのとうの固くたたまれていた黄緑色の葉も、柔らかく膨らみ始め、肌寒い中にも陽だまりに春の香りが漂う。

1986年2月、バブル絶頂期。業績絶好調のIT企業CCS株式会社の6次面接が終わり最終合否を待つばかりだった後前美唯子(うしろまえみいこ)は、縁側で日向ぼっこをしながら、失業した次の日に自宅の庭で保護した子猫たちにミルクをあげていた。

「2人の養育費を稼がなきゃね」

白黒のタマと三毛のクー。2匹は美唯子の両掌にすっぽり納まってゴロゴロいいながら転がされるままにうらうらと揺られていた。柔らかい日差しを浴びて、生まれたばかりの白い産毛がなんと美しいことか。

失業手当のほとんどを、獣医に支払う医療費や行き帰りの交通費に当てていた。縁側で猫とじゃれあう美唯子は、母親アイ子がしゃきしゃき働いているおかげでのほほんとしていられる。面接日以外は、朝から晩まで猫・ねこ・ネコの至福の生活だ。

父は行方不明だ。母は連絡をとっているらしいが。アジアのどこかへ自分探しの旅に出て、どこかに定着し、何らかの仕事を始めているらしいと親類が言っていた。

母との間では父の話はタブー。たぶん聞けば話してくれる。でも、パンドラの箱を開けてしまうのが美唯子は怖い。聞けば、今まで抑えていた父への怒りと恨みが大爆発を起こし、いつ果てるともない罵詈雑言が噴き出すに違いないのである。

「触らぬ神にタタリなし…」

母は、大学を卒業して以来の仕事である有名デパートのショップコーディネータを機嫌よく続けている。彼女をねぎらいながら、美唯子は父のことを一切口にしなかった。

ただ時々、「仕事、ご苦労様」などと普通に話しかけたきっかけで、母がはじけることがある。

「何で私が働き続けなきゃならないのよ(怒)結婚したら少しのんびりすればいいよって言ったじゃない(怒)のんびりするって仕事しながらかよ(怒)あんた生んで3ヵ月後には仕事復帰よ(怒)あの男は何してんのよ(爆)一人で勝手に、結婚してすぐ南米に行っちゃったわよ(爆)計画があるって聞いたとき、新婚旅行だとばかり思って『いいねー』って言っちゃったわよ(爆)普通そう思うわよね(怒)あのタイミングだったらさあ(怒)で、今度は東南アジアかよ(爆)(裂)」

叫びは無限に続く。シャツを二の腕まで捲り上げ、空に向かってこぶしを振り上げ、炎を吹いていた。

「ママ、いただきもののアンポ柿があるよ〜♪お茶入れよっかね〜」

「や〜だ〜(嬉)」

突然機嫌がなおる。甘くて美味しいものがあれば、たいていのことは克服してしまう気のいい母であった。本当は不安で心配で悲しくて苦しくてたまらないのだが、下町っ子の心意気と、娘に苦しみを共有させたくない気持ちで、普段は自己抑制の塊になっている。ごくたまに、特にきっかけもなく、どうしても気持ちを抑えきれなくなり、父親への果てしのない悪口爆弾を降らせるのだ。

母の話は、いずれまた別のお話として詳しく。

中森明菜の『DESIRE』。

「こんなに歌唱力のあるアイドルがいるんだ。感動〜」

美唯子は感心しつつ、自宅で振り付け入りでのカラオケの練習。

「(けっこういける♪)」

などと思っていた。

この頃はベストヒットUSA」が最高潮!美唯子は、音楽漬けの毎日だった。

ホイットニー・ヒューストン『How Will I Know』、サバイバー『Burning Heart』、ミスターミスター『Kyrie(キリエ)』、ジェームズ・ブラウン『Living In America』、他に、ビリー・オーシャン、シャデー、ワム、マイアミサウンドマシーン、スターシップなど♪ディスコサウンドを中心に、あらゆる音楽が輝いていた。

次回は美唯子の彼の話を。

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